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2016.11.24
京都大学名誉教授によるセミナー「世界の水問題」を実施しました
私たちが生きていくために絶対に必要なのが“水”。「いのち」にとって欠くことができないため、地球外生命の探索でも“水”の有無が焦点となっている。
21世紀は“水”を巡る紛争の世紀となる、と言う人もいる。世界人口は75億人に迫ろうとしている。早ければ2050年までには25%増の100億人に達するという予想もある。水の使用量と人口は相関関係にあり、世界人口を支える穀物生産にも水は必要不可欠。世界の水需要は今後、増加の一途をたどる。地域によっては安全で清潔な水を得ることが死活問題となっており、やがて多くの国で現実の課題となっていく。国際社会を生きていくためには、「世界の水問題」について理解しておくことが大切だと言えるだろう。
このような視点に立ち、インターナショナルスクールとして高校生に先端的な英語・国際教育を施している本校は、京都大学名誉教授の梶本興亜先生にお越しいただき、「世界の水問題」というテーマでセミナーを実施した。なお、元・京大教授という肩書から近づきがたいのではと先入観を抱いていたが、気さくな人柄で、水問題を多様な角度から話してくださった。
人体の生命維持と人間らしい生活
自己紹介の後、梶本先生は、比較的身近なトピック(人体の生命維持と人間らしい生活)から話を始めた。
「人間の体の何割が水か知っていますか?」
という質問に生徒たちは6割とか7割とか口々に答えた。
実際は、梶本先生によると年齢により異なるとのことで、子どもで70%、大人は60~65%、そして老人になると50~55%だそうだ。
「では、どれだけの水分を失うと人は死ぬか知っていますか?」
という質問に5ℓとか8ℓとか、わからないなど、こちらも口々に答えていた。実際は、水分の2割を失うと死に至るとのこと。体重60㎏の人で12ℓの水分を失うと非常に危険な状態になる。
「では、からだから水がどんな形で排出されますか?」という質問に、おしっこや汗などの答えが出た。
季節や体重によって変化するが、平均的な人で1日に2.5ℓの水を排出しているそうだ。排泄で1.5ℓ、発汗で0.5ℓ、そして呼吸0.5ℓもの水分を出しているという。
では、人が人間らしい生活を営むためには一日にどれだけの量の水を必要とするのか。最低50リットルだそうだ。ニジェール共和国などアフリカの多くの地域やアジアの一部の地域では10ℓを切る国々もあり、雨が降らなければ生きるか死ぬかの切羽詰まった危機的な状況となる地域もある。また、バングラディシュのように水があっても汚染されていて(バングラディシュは、多の人が頼っている井戸水は砒(ヒ)素で汚染されていて、地下水砒素中毒の最も深刻な国と言われている)、安全で衛生的な水にアクセスできない地域もある。
日本では水は豊かで衛生的で、平均な人で実に290ℓもの水を毎日使っている。洗濯だけで70ℓ、炊事では60ℓ、トイレには・・・ということで、金銭などを乱費するとき、「湯水のように使う」という表現にあるように、ふんだんに水を使っている。このため、水の価値を実感できない面がある。
本校では2年生が約2週間オーストラリアにホームステイするが、毎回、説明会で強調しなければならないのは水の使い方。日本では節水の意識をせずにシャワーを使える。しかし、オーストラリアではそんなわけにはいかない。ホストファミリーとのトラブルとならないように、「5分を目途に、練習し、工夫しよう!」と意識付をしている。オーストラリアでも水は貴重なのだ。
導入のあと、地球全体の水量という大きな視点から本論に入った。地球の水量の97.47%は海水。私たち人類が使用できる淡水のうち、河川などの実際に使える水は全水量の0.01%だそうだ。穀物生産のためにも多量の水が必要となる。穀物や牛肉の多くを海外からの輸入に頼っている日本は、実は「水輸入国」というヴァーチャル・ウォーターにも話が及んだ。アメリカが世界一の生産量を誇っているトウモロコシの多くは牛や豚などの家畜の餌となる。このため1頭の牛を育てるのに多量の水が消費され、1キロの牛肉を生産するのに15,000リットルもの水が必要となる、と言うのだ。
アメリカや中国ではトウモロコシや大豆などの穀物生産に地下水を多量に汲み上げている。その結果、3~6メートル程度の地盤沈下を起こしている地域が広がっている。場所によっては12メートルも沈下しているという。数万年かけて貯めてきた地下水をここ20~40年で大量に使用しているため生じている危機的な状況についても話されていた。ヨーロッパが主導する水ビジネスや水道事業のインフラ輸出にも触れられた。安全な水の生産技術力で世界一を誇る日本が水ビジネス分野に切り込んでいく余地はあるのか。将来有望な投資分野だそうだ。
セミナーの詳細は省略する。しかし、日ごろ生徒たちがGeography(地理)やGlobal Studies(国際理解)などの授業で学んでいることを統計的に、また多面的に再確認することができ、国際問題としてこれからいよいよ注目されていく水問題を改めて真剣に考える契機となった。アメリカ、イギリスなど多国籍の教職員、そして帰国生や帰国子女など海外経験のある生徒も交えて自らの体験から議論できるインターナショナルスクールならではの授業で、このような国際問題がよく取り上げられている。一般の中学校出身生徒が多い本校ではあるが、多様なバックグラウンドを持つ教職員や生徒いるため展開できる授業と言えるだろう。
先生の話を聞く生徒たちの眼差しが印象的だった。先生は関西の有名私立大学でも授業を担当しているが、本校の生徒たちはよく聞いてくれたと言って帰って行かれた。
教育主任 滝本武
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