ブログ
2017.01.17
有権者として求められる力を身に付けるために(後編)
(これまでの内容)
- 18歳選挙の実施に伴い、主権者教育が公民科目において重要視されるようになった
- 政治に対する関心は個人差がとても激しく、極論に走る生徒も居るので評価が難しい
- 学生運動が激しかった70年代、高校現場にも暴力行為が蔓延し、それを危惧した文部省は「高校生は学校内外での政治活動を自粛するべき」という通知を出した
46年ぶりの通知見直し、高校生の政治活動容認
そして、18歳選挙権が施行されるにあたり、昨年の10月29日に「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について」という通知が文部科学省より出され、高校生の学校外での政治活動が容認されるようになりました。合わせて、(前編)で触れた「高等学校における政治的教養と政治的活動について」という通知は廃止されました。この通知内容の変更は通常選挙のためだけではなく、憲法改正のための国民投票も視野に入れてのものです。(前回のブログ、中編はこちら
今回新しく出された通知は、「校内の政治活動は原則禁止するが、校外では一定の条件の下、容認する」という条件付きの一部緩和です。この通知の意味するところは、
「政治熱が高まりすぎて勉学に支障が出たり、反社会的行動に走ったりするのは心配だが、せっかく選挙権を得た高校生が政治に興味関心が無さ過ぎて『どこに投票したら良いのかさっぱり判りません』という状態にあるのは、それはそれで困る」
といったところでしょうか。公民科に期待の視線が注がれているのを感じます。しかしながら、一部の政治家からはこの政治活動容認の流れを危惧する反応も見受けられます。学校教育現場(教室)は基本的に閉鎖的で密室です。1人の大人と大勢の未成年が一時間弱、同じ空間で過ごす人工的な空間です。「偏向した思想を持つ極一部の教員によって教育の中立性が損なわれ、ひいては選挙の公平性も失われてしまうのではないか」という焦燥感を以下の報道内容から感じます。
- 政治的中立性逸脱する教諭を自民党の専用サイト(現在閉鎖済、Webアーカイブ)を通じて密告させるという内容が批判を受けた問題
自民党の対応の是非はともかく、そのようなサイトや法案が立ち上げられた背景には、「これまでの学校教育は不偏不党では無かった部分もあった。」自身の受けてきた教育を振り返り、「今思えば、偏った考え方を持った先生も居たなぁ」と感じる人々が少なからず居るということに他なりません。そもそも「政治的中立性を保った教育」とはどのような教育なのでしょうか。
“公正中立”の矛盾
学校教育において政治的な問題が取り扱われる比率が増すと同時に、教員自身の中立性の問題もより一層、重要となります。何故ならば発達段階の若い精神は、時に他人の考え方に簡単に染まってしまうからです。特に受験・進路や就職活動などの人生の岐路に立たされた時、人はアイデンティティの危機を迎えます。そんな時ほど極論に染まってしまう危うさを誰もが抱えています。
それでは、情緒不安定に陥りやすい青少年に対し、主権者教育(生徒個人に政治的判断が出来るような知識・教養を身に付けてもらうことを目的とした教育)を行う上で、学校現場はどのような点に留意すべきでしょうか。前述の平成27年度の通達では以下のように述べられています。
- 教育基本法第14条第2項(法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。)に基づき、政治的中立性を確保することが求められる
- 教員については、学校教育に対する国民の信頼を確保するため公正中立な立場が求められており、教員の言動が生徒に与える影響が極めて大きいことなどから法令に基づく制限などがあることに留意することが必要である。
一見すると特に問題のない自然な文章のように感じますが、この「公正中立」という表現が、実際に授業を担当する教員からすると非常に曖昧であると感じております。問題はその中立とは「誰にとっての中立か」ということです。
そもそも政治とは「利害関係の調節」こそが、その本質であると考えられます。社会を構成する多種多様な人々には、十人十色の考え方があり、物事の捉え方も千差万別です。その利害関係も多様であるし、どのような価値を重視するかについても争いが起こりうる。だからこそ、社会に平和な共存関係を築くための意思決定活動、すなわち「政治」が必要なのです。そもそも我々が住む世界には意見の対立が溢れているのです。
社会科で具体例を挙げるならば、憲法の改正を悲願とする今の安倍自民政権と日本教職員組合の考え方に近しい人々では思想、歴史観、社会観が異なります。細かな内容についてはここでは割愛致しますが、どちらの考え方が完全なる「公正中立」であると、誰が決めることが出来るのでしょうか。そして両極端に偏向した思想では無くとも、多かれ少なかれ、どのような人にもその人の志向、考え方があるのです。
「教壇に立つ者は公正中立であらねばならない。」多くの教員は頭では理解していることなのですが、そこはどうしても人間なのです。その人の人生で培われた感じ方、考え方、いわば「臭い」を完全に消し去ることは出来ません。人は完全に「無味無臭の透明な存在」になることが出来ないのではないでしょうか。
例を挙げると、社会科においては、
①毎回の授業で取り上げるトピックの重点の置き方やその頻度
②左右で結論が出ていない歴史認識や原発問題などの政治課題の取り上げ方
もっと踏み込んで言及すると、
③授業中の教員の言い回し、身振り手振り、声のトーン、抑揚の付け方、などに現れる無意識下のコミュニケーション
によって、発信者の意図はどうしても伝わり、生徒はそれを肌で感じ取ります。こうした非言語コミュニケーション(non-verbal communication)によって教員は場の雰囲気を支配することが可能です。アクティブラーニング(議論や対話など生徒主体の授業方式)においては、知らず知らずの無意識下で(あるいは故意に)議論の内容を誘導し、結論に導くことになりかねません。
だからと言って、全く教員自身の意見や考え方を全く反映させずに授業をするのもリアリティを欠くので難しいのです。政治的に左右で議論が分かれる問題こそ、アクティブラーニングなど生徒の主体性を育むのに良い題材になり得るのです。そして授業内容に幅を持たせ、自分の考える良い授業をしようと考える教員ほど、自然と熱が入り、授業内容に独自色を盛り込む傾向が強いのではないかと感じております。
黒板上の“両論併記”
先の自民党のサヨク教員密告サイトでは、「『教育の政治的中立はありえない』と主張し、中立性を逸脱した教育を行う先生方がいる」と批判しています。ですが、前述の通り、完全なる中立は理論的にあり得ないと私は考えております。(だからといって極端に偏向した考え方の教育を行って良いわけではありません。)
意見が分かれる社会問題(原発、憲法改正、在日米軍基地、歴史認識等)について、授業内で取り扱えば、生徒に必ず何らかの判断を迫ることになります。どうあっても生徒に何かしらの影響を与えてしまうことは不可避なのです。そもそも教育とは対象者に何かしらの影響を与えることに他なりません。辞書には「【教育】ある人間を望ましい姿に変化させるために、身心両面にわたって、意図的、計画的に働きかけること。(デジタル大辞泉)」とあります。それならば、授業中の中立公正を保つために、逆説的ではありますが、教員自身が自分の意見を授業内で表明することを恐れず、いっそのこと堂々と明言してしまってはどうでしょうか。
①まず、自分自身の政治的スタンス、志向を先に生徒に伝えてしまうのです。例えば、私自身は少し保守的な考え方をしています。それを教員自身が自覚した上で、授業開始前に予めアナウンスしておくのです。「私個人はこの問題については~~~と思う」と。その発言がどう影響するかは、小学校、中学校、高等学校、それぞれの発達段階によって異なります。小学生低学年など、まだ自らの判断が危うく簡単に大人の言うことに追随してしまう年代には、こうした手法は避けるべきでしょう。ですが、高校生ぐらいになると、「あぁ、そういう考え方の人も居るよね」と客観的な判断が出来るようになります。生徒は最初から色眼鏡をかけて教員の活動をみることになります。
②と、同時に自分とは全く逆の立場の意見もしっかりと取り上げます。自分の心情とは正反対の意見であったとしても、その立場になったつもりで演じ、限られた時間の中で出来る限り均等に取り扱います。寧ろ、自分とは逆の立場の意見を意識的にやや大きめに取り上げるぐらいで丁度よいのかも知れません。そして、威圧的な態度にならないように、例え教員と逆の立場の意見が出ても、好意的に受け止め、誰もが自由に意見を言える雰囲気づくりも必要です。その為には、教員自身の演技力やバランス感覚がとても重要になります。日々、試行錯誤しながら努めて参ります。
社会科 松尾祐樹
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