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2016.09.16
前期の授業をプレイバック!2年生政治・経済「模擬国民投票」
(前回の内容)有権者として求められる力を身に付けるために(中編)
- 2年生、政治・経済授業内で「模擬国民投票」を実施するにあたっての手順
- 生徒の自主的な活動に重点を置く発言・対話型学習、アクティブ・ラーニングの一環
- アクティブ・ラーニングの根本的な課題、生徒の学習参加度、発言量の差
「平和」に対する二種類の考え方
今回のアクティビティは、生徒主導で行われましたが、議論前に少しだけ論点の解説をしました。全ての生徒に事前課題として読み、考えるように指示した改正案の重要項目は以下の通りです。
- 天皇を「国家元首」と法的に位置付ける(1条)
- 国旗国歌を「象徴」と明記する(3条)
- 自衛隊を「国防軍」と改称し、軍備不保持の条項削除、国民協力義務の追加(9条)
- 外国人参政権は容認せず、国籍条項の新設(15条)
- 家族単位での共助、自助努力の強調(24条)
- 環境権の追加、在外国民の保護(25条)
- 「緊急事態条項」の新設(98条)
- 憲法改正発議要件を両議院の「2分の1以上」の賛成に緩和(100条[旧96条])
改正される内容は「象徴であつて ⇒ 象徴であって」といった旧仮名遣い等、表記上の些末なものを含め多岐に渡ります。限られた時間内で、全ての改正点に言及することは不可能なので、今回のアクティビティでは第9条の平和主義、「戦争放棄」「安全保障」に焦点を絞ることが出来るように、事前の課題に以下のような設問を設けました。
◆第9条の問1
現行憲法の9条こそが、日本国憲法が平和憲法と呼ばれる理由であるが、あなたはこの9条を自民党の憲法改正案のように変えることについてどう感じるか。自由に論ぜよ。(全肯定、前否定、ここの一文は賛成だが、ここの一文は反対等、部分項目ごとに自分の意見を述べよ。)
◆第9条の問2
新設項目第9条の3(領土等の保全等)の一文をそのまま書き写し、Yes / Noで答えた上で、この内容は具体的にどのような問題に今後発展する可能性がある内容か、考察せよ。
3項 [ 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。 ]
この3項の是非については、(Yes主権国家として当然の内容である / No平和主義の理念を破壊するものである)と考える。何故ならば、○○○~(以下、論述問題)
南シナ海、東シナ海、日本海。昨今、近隣諸国が軍事的な圧力を強める中で、生徒のみならず、日本人全体で「平和」について本気で考えねばならない時期にあると思います。一つは、理想主義的な平和のあり方で、あくまで戦力の不保持、戦争の放棄を目指して世界に働きかけてゆく方向性。もう一つは、現実主義的な平和のあり方で、抑止力としての戦力をしっかりと保有し、集団的安全保障の枠内で自国の安全を確保してゆく方向性。
教員の中立性に留意しつつ、生徒が「改憲」「護憲」それぞれの立場に立ち、平和主義国家日本はどうあるべきかを考えるキッカケになれば今回のアクティビティは成功です。
7月22日(金)政治・経済アクティビティ「模擬国民投票」
2年2組改憲派代表:男子1、女子22年2組護憲派代表:男子2、女子1 ★投票結果:改憲16、護憲5
2年2組 総評
両派ともにしっかりと課題について調べ、明確な自分の意見をもって議論に臨み、聴衆からの質問も多く飛び交い、理想的な良い討論でした。
改憲派の主張を要約すると「今の日本の防衛力は例えるならば、鍵のかかっていない金庫に等しく、今の法制度では、自国民のみならず、自衛官の安全も保障できるか疑問である。憲法も時代や状況に応じて変えていかねばならない。」というものでした。
護憲派の主張は「安倍政権は徴兵制には繋がらない、としているが、その後の政権による憲法解釈や法整備によって国民への約束は反故にされることもあり得る。日本は今まで通り専守防衛に徹し、周辺国を刺激するような改憲は避けるべきだ。」というものでした。
論点になったのは「じゃあ、有事の際には誰が日本を守るの?」という点で、聴衆役の生徒からも「アメリカが押し付けた憲法なのだから、アメリカが極東の安定を担うべき」「いや、草案はGHQによるものであったとしても、現行憲法には日本人の意図も介在しているのだから、押しつけ憲法論は間違いだ」と言った意見が飛び交いました。
2組の議論で特に印象的だったのが、議論終盤、聴衆役生徒からの「もし、撃ち落としに失敗したミサイルが国土に着弾して犠牲が出た場合、それでも相手国への反撃は避けるべきなのですか?」という護憲派への質問でした。実は一昨年にも模擬国民投票を行ったのですが、その時も終盤に議論となった内容でした。それに対する護憲派の回答は「報復行動に出れば、憎悪が憎悪を呼び戦火は拡大し、戦争になるだろう。(やや言い辛そうに)反撃は他国に任せて、日本は攻撃を受けても防衛に専念すべき」というものでした。質問者は「死んだら元も子もないじゃない」と釈然としない様子でしたので、このやり取りが最終的な投票行動にある程度の影響を与えたのかも知れません。これは「右の頬をぶたれたら、左の頬を差し出しなさい」というキリスト教的な価値観を体現した意見であると感じました。それが本当に正しい解決策であるかどうかは判りませんが、答えにくい質問であってもブレることなく自分の意見を貫き通した護憲派生徒に称賛を送りたいと思います。
2-1改憲派代表:男子1、女子1、欠席1 2-1護憲派代表:男子3 ★投票結果:改憲4、護憲11、棄権5
2年1組 総評
うってかわって1組の討論の結果は護憲派が勝利する展開となりました。改憲派は欠席で一名欠いたことに加え、代表者間の打ち合わせ不足の感は否めませんでした。護憲派は冷静に議論を進める姿勢を終始崩さず、極論に走りがちな改憲派と対照的でした。
まず、改憲派の主張が極論、かつ抽象的すぎたように思います。「この国は八百万の神々がおわす神州であって、今、それが異国によって踏みにじられようとしています。」という、やや演出過剰気味な演説が聴衆の鼻を突いたのかも知れません。教室内の空気が段々と護憲派に偏っていったように感じました。議論はやや混乱し、聴衆からは「意味わかんな~い」という野次が飛ぶ始末。棄権が多かったのも論点がボヤけてしまったからでしょう。しっかりと演説内容を推敲し、入念な準備を伺わせただけに、今回は空回りしてしまったようで残念でした。次回アクティビティ時に今回の経験を活かしてくれることを期待します。
(登壇者が演説をする際、改憲派を右側、護憲派を左側に立たせたのですが、改憲派の代表者は「先生、僕はもっと右端に立ったほうがいいんじゃないですかね?」なんて冗談を飛ばすぐらいの余裕はあるようでした。)
改憲派は現在の東アジアの軍事力比較や天皇制についてなどの知識量では護憲派を上回っていたのですが、知識量と演説の良し悪しは別物です。実際の社会、政治や選挙もそうであるように、人は合理的な判断よりも感情を優先して動くことがあります。今回の模擬国民投票はそうした点でも現実社会を模しており、生徒もアクティビティを通じて何か得るものがあったのではないか、と感じております。
今回のアクティビティ中、担当教員である私は「中立性」にとても気を使いました。次回更新は、学校現場における政治的中立性に焦点を当ててみたいと思います。
社会科 松尾祐樹
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